糖尿病について
糖尿病は、血糖値が高い状態(高血糖)が長期間にわたって続く状態で、高血糖のまま長期間放置しておくとさまざまな合併症を引き起こす可能性があります。
人間には血糖値を上げる仕組みは複数ありますが、下げることができるのはインスリンというホルモンと、尿に糖を捨てることの二つしかありません。基本的に糖尿病とは、体内のインスリン分泌低下と、インスリンの効きづらさによって血糖値を下げることができなくなった状態です。
糖尿病は、成因によって1型糖尿病、2型糖尿病、その他によるもの、妊娠糖尿病に分類されます。
1型糖尿病:自己免疫によってインスリンを分泌する膵臓の機能が失われ、自力ではほとんどインスリンを分泌することができなくなった糖尿病です。原則として、インスリン自己注射による治療を生涯続ける必要があります。
2型糖尿病:食べ過ぎや、肥満などいわゆる生活習慣による糖尿病です。もともと、少しインスリン分泌が少ない人が食べ過ぎや肥満などインスリンが効きづらくなる要因が重なることで少しずつ血糖値が上昇します。通常は生活習慣の是正をしていただき、不足なら内服薬やインスリンを含めた自己注射薬の使用を検討します。
その他によるもの:それまで糖尿病ではなかった人が肝臓や膵臓などの病気や、ステロイド薬など血糖が上昇する薬剤によって血糖上昇し、糖尿病の基準にあてはまる状態です。原因によっては内服薬が使用できないことも多く、インスリン自己注射での治療を要することが多くなります。
妊娠糖尿病:最近の研究で、妊娠中はわずかな血糖値の上昇も赤ちゃんに影響を与えることがわかってきたため、通常の糖尿病よりかなり厳しい基準で治療を要する糖尿病です。食事の注意のみとなることが多いですが薬剤での治療を要する場合、赤ちゃんへの影響を避けるため原則インスリン自己注射での治療となります。
糖尿病にみられる症状
糖尿病で自覚症状を感じることは少なく、症状があるときは300以上の高血糖になっていることが多いです。
一般には のどが渇きやすくなる⇒水分をたくさん飲む⇒尿の量・回数が増える⇒のどが渇く というループになることが多くなります。
血糖値が300-500以上になることが続くと、糖分を適切にエネルギーに利用できなくなるため倦怠感や急激な体重減少をきたすことがあります。特に体重減少は、糖尿病以外に胃がんや膵臓がんなどでもみられるためダイエットをしているわけでもないのに5kg以上の体重減少がみられる場合、糖尿病とお腹の検査の両方を行うことがすすめられます。
糖尿病の合併症
糖尿病では高血糖による急性合併症と、いわゆる3大合併症に代表される慢性合併症とがあります。慢性合併症はすべてをあげることが難しいため代表的なものを紹介します。
急性合併症:高血糖による著明な倦怠感や意識障害をおこしたものです。主に1型糖尿病の発症時やインスリン治療中断したときにおきる糖尿病ケトアシドーシス、ジュースなど甘いものを短期間に大量に摂取したときにおきるソフトドリンクケトーシス、肺炎や尿路感染などを契機に血糖値が急上昇しておきる高血糖高浸透圧症候群に分類できますがいずれも高血糖とそれに伴う高度な脱水を急いで治療する必要があり、入院が必要です。
慢性合併症:昔から3大合併症として、糖尿病網膜症、糖尿病腎症、糖尿病神経障害が知られていますが、それ以外にもたくさんあります。一部を紹介します。
糖尿病網膜症:眼の奥にある網膜に少しずつ出血(眼底出血)をきたしていきます。最初は単純網膜症といって、針の先ほどの小さな出血(点状出血)からはじまりますがこの時点では視力への影響はほぼありません。進行すると突然大きな眼底出血をきたし、視力が急低下することがあります。眼科での定期的な眼底検査を行い、大きな眼底出血をきたす前の治療が必要です。
糖尿病腎症:高血糖に高血圧が加わると進行しやすくなります。通常は徐々に尿タンパクが増えていき、その後血液検査での腎臓の数値(Cr:クレアチニン)が上昇していき最終的には腎不全となり透析療法が必要となります。
糖尿病神経障害:足先の神経を中心に感覚低下や異常感覚(ピリピリする痛み、熱感、しびれなど)をきたす末梢神経障害と、心臓や胃腸などに作用する自律神経の機能低下をおこす自律神経障害に分けられます。進行をおさえるとされる薬もありますがなかなか効果を実感しづらく、可能な治療は神経の痛み止めなどで自覚症状を緩和することがメインとなります。
動脈硬化性疾患:糖尿病の人は高血糖以外に高コレステロール、高血圧があることが多く、これらはいわゆる動脈硬化を進めていくため動脈硬化によっておきる狭心症・心筋梗塞、脳梗塞、下肢閉そく性動脈硬化症を発症する可能性が高くなります。
各種感染症:高血糖では特に細菌に対する免疫機能が低下するため、肺炎や尿路感染症など細菌による感染症全般にかかりやすくなります。インフルエンザや新型コロナなどウイルスに対する免疫力は大きく低下しないとされているため発症率は大きく上昇しませんが、これらによる肺炎など重症化する可能性は高くなります。
糖尿病足病変:糖尿病神経障害と下肢閉そく性動脈硬化症の影響により、足のキズが治りづらくなります。キズが大きくなっても神経障害で痛みをあまり感じないため発見が遅れ、足の切断に至ることがあります。
歯周病:感染に対する免疫力低下の代表的なものに歯周病があります。なりやすいだけでなく歯周病そのものの影響で、血糖値を下げるインスリンの効きが悪くなり、さらに血糖値を上げるという悪循環もおこすため歯痛などがなくても定期的に歯科検診を行うことがすすめられます。
がん全般:糖尿病の人は、胃がん、大腸がん、膵臓がんなど消化器系の臓器を中心に、ほとんどのがんが1.3~4倍ほどかかる可能性が高くなります。糖尿病としての保険診療ではがん検査を行うことができないため、糖尿病で通院していてもがん検診は別個に受けることがすすめられます。
糖尿病の治療法
食事療法・運動療法
糖尿病治療の基本となります。当院では火・水・木の午前中のみとなりますが、管理栄養士による栄養相談を受けることも可能です。
運動は、ウォーキングなどいわゆる有酸素運動を日々継続することが望ましいため、あまりがんばるよりも日々の習慣として無理のない範囲で行うことがすすめられます。また筋肉が大きくなると血糖を消費する受け皿が大きくなるため、可能な方は筋トレも有効です。ジムに通うのももちろんいいですが、イスに座る・立つという動作を10-20回繰り返すだけでも簡単なスクワットをするのと同じ効果が期待できるため、工夫しだいで日常生活に取り入れることも可能です。
内服薬
SU薬・グリニド薬:SU(スルフォニルウレア)薬は昔からある、糖尿病薬の基本となるものです。膵臓にはたらきかけてインスリンの分泌を促しますが、インスリン分泌能が大きく低下していると効果が期待できなくなります。また、血糖値が下がりすぎて冷や汗、ふるえ、強い空腹感などといった低血糖症状をおこすことがあります。
代表的な薬:アマリール(グリメピリド)、グリミクロン(グリクラジド)、シュアポスト(レパグリニド)
ビグアナイド薬:メトホルミンとブホルミンという2種類の薬がありますが、現在はほぼメトホルミンしか用いられません。安価で血糖低下作用もよく、容量に比例して強い効果が期待できますが高容量では下痢などお腹の不調が出ることがあります。また、ごくまれですが内服中に高度な脱水など腎不全をおこすと乳酸アシドーシスという副作用があることが知られています。そのため、腎臓が悪くなってくると減量、中止する必要があります。
代表的な薬:メトグルコ(メトホルミン)
DPP4阻害薬:十二指腸から出るインクレチンというホルモンの作用を高めて、血糖低下を促すものです。これだけでは低血糖の危険も少なく血糖制御ができますが、SUやグリニドと組み合わせると強い血糖低下作用をえられる反面、低血糖をきたす可能性が高まるので注意が必要です。
代表的な薬:ジャヌビア・グラクティブ、テネリア、エクア、トラゼンタ、ネシーナ
チアゾリジン薬:アクトス(ピオグリタゾン)1種類のみですが、インスリンの効きをよくする効果があります。むくみやすくなったり、わずかですが骨折や膀胱がんになる確率が上がりやすくなったりするとされているため他の種類の薬で治療が不十分な場合に追加することが多いです。
αグルコシダーゼ阻害薬:腸での血糖吸収をじゃますることで血糖値の急激な上昇を抑える薬です。食前に飲む必要があることと、膨満感やオナラが増えることがあるためあまり使いませんが、ベイスン0.2mg錠が糖尿病予備軍に対して糖尿病への進展を抑える薬として使用できます(他の糖尿病薬やベイスン0.3mg錠は、糖尿病にならないと処方できません)。
代表的な薬:セイブル(ミグリトール)、ベイスン(ボグリボース)
SGLT2阻害薬:おしっこの糖を大幅に増やし、糖を捨てる結果血糖値を下げることができる薬です。インスリン分泌が低下していても効果があるため、1型糖尿病にもインスリンに追加する形で使用できます。また、心不全や腎不全にも効果があるとされています。ほかに体重減少が期待できますが、尿糖が増えることで膀胱炎などの尿路感染が増えることと、倦怠感がでる人がおり、そういった場合長期間の使用は難しくなります。また、ごくまれではありますが血中のケトン体という物質が増えて意識障害を起こすことがあります。
代表的な薬:スーグラ、フォシーガ、ジャディアンス、デベルザ・アプルウェイ
ツイミーグ:最も新しい薬で、ミトコンドリアの作用を介して血糖低下します。メトホルミンに近い機序とされており、人によってはメトホルミンよりお腹の不調が出ることがあるとされています。
注射薬:昔からあるインスリン注射と、GLP-1受容体作動薬の2種類に分けられます。
インスリン:血糖を下げるホルモンそのものを注射して血糖を低下します。自己注射用のものは、一般の方が使用しやすいように年々工夫・改良が加えられています。作用時間によって様々な種類に分類できますが、現在では注射してすぐ血糖低下がおこり数時間以内に効果が消える超即効型インスリンと、24時間以上安定して少しずつ効果が出る持効型インスリンのいずれかもしくは両方を使用することが多くなっています。注射は容量の調節が可能なので、たくさん注射すれば必ず血糖は下がりますが、容量の調節は医師からの指示に従って行う必要があります。
代表的な超即効型インスリン:ノボラピッド(アスパルト)、アピドラ、ヒューマログ(リスプロ)、フィアスプ、ルムジェブ
代表的な持効型インスリン:トレシーバ、ランタスXR、ライゾデグ(トレシーバとノボラピッドの混合製剤)
GLP-1受容体作動薬:DPP4阻害薬と同じようにインクレチンというホルモンを介する薬ですが、こちらはインクレチンとほぼ同じものを直接注射するためDPP4阻害薬より強い効果が期待でき、血糖低下に加えて食欲低下⇒体重減少も期待できますが、吐き気が出る人もいます。DPP4阻害薬との併用はできません。毎日注射するものと、週一回注射するタイプのものがあります。また、内服薬としてリベルサスという薬もありますが高容量の注射剤の方が効果は高いです。
毎日注射するもの:ビクトーザ、バイエッタ、リキスミア
週一回注射するもの:トルリシティ、オゼンピック、マンジャロ